大植真太郎 インタビュー
コンテンポラリー・ダンス界で活躍する5名の男性ダンサーを起用し、大きな注目を集めた『櫻の樹の下には ー笠井叡を踊るー』。あれから2年近くの月日を経て、この秋再び同キャストで新作『櫻の木の下には ーカルミナ・ブラーナを踊るー』の上演を行う。開幕に先駆け、振付のためスウェーデンから帰国中の大植真太郎にインタビュー。創作の様子と意気込みを聞いた。
――拠点のスウェーデンから一時帰国し、笠井叡振付作『櫻の木の下には ーカルミナ・ブラーナを踊るー』の創作に臨んでいます。リハーサルの様子はいかがですか?
天使館のある国分寺に滞在し、笠井さんと一対一で創作を重ねています。今回の滞在は2週間ほどで、初日からすぐ振付に入りました。笠井さんの振付は速すぎるくらい速い。少し作っては音楽ナシで踊り、今度は音楽アリで踊り、また最初から踊って――、を延々と繰り返していく。僕が“ちょっとシンドイです!”と言うと、笠井さんは“あ、そう?”なんて言ってましたけど(笑)。
まず初めに笠井さんに“今の大植真太郎に振付けたいんだ”と言われました。だけど『櫻の樹の下には ー笠井叡を踊るー』から何が変わったかというと、僕の中では2つ歳をとっただけ。自分の身体のことなので、僕自身は今の自分がどうなのかというのはあまりよくわからない。ただ『櫻の樹の下には ー笠井叡を踊るー』という作品を経たことで、僕も前より笠井さんの踊りを受け入れやすくなっているというのは事実としてあると思います。
これは前作のときも感じたことだけど、たぶん笠井さんは作品を作っているわけではない気がします。笠井さん曰く、“自分は彫刻を舞台にのせているんだ”と言う。彫刻を見せ、次に見せたいものがあるからそれをどかし、また次を置くんだ、と。ただ『櫻の樹の下には ー笠井叡を踊るー』のときはそうはならず、ひとつの流れのようなものが作中ずっと続いてた。今回は前作とは違い、どちらかというと彫刻的になるのではないかと感じています。
――前作『櫻の樹の下には ー笠井叡を踊るー』で初めて笠井叡作品に出演しました。当時の心境を改めてお聞かせ下さい。
最初はいろいろ戸惑いがありました。僕は笠井さんの踊りというものを見たことがなく、笠井さんの“ポスト舞踏”は自分にとって想像のつかないことばかり。やったこともなければ、この次どうなるかというのがわからない。ワークショップに参加しつつ、“もしかしたら今ならまだ断れるのかな?”なんて思っていましたね(笑)。実際振りを渡されたときは、“これを僕がやるんだ、どうしよう”という心境で、不安だったり、落ち込んだこともありました。まずは笠井さんの動きやリズムを見ること、それだけに集中しようと考えて。結果的に、中身を空っぽにして参加できた気がします。
前回もずっと国分寺に滞在し、毎日天使館に行って笠井さんと一緒に朝ごはんを食べ、夜まで一緒に稽古をして……と、まさに合宿のような日々を過ごしていました。家族の誰より一番笠井さんの近くにいたし、そういう意味ではすごく楽しかったですね。
――今回は『カルミナ・ブラーナ』を踊ります。踊り手としてこの曲をどう捉えていますか?
何より戸惑ったのが楽曲でした。僕自身普段創作で音楽を使わないことが多く、しかも今回は『カルミナ・ブラーナ』です。笠井さんは“『春の祭典』のような儀式的なものにしたい”と言っていて、けれど“『春の祭典』は素晴らしすぎる”とも言う。確かにそうで、『春の祭典』は計算されすぎていてあまり土着的ではない。『カルミナ・ブラーナ』は高貴な感じとはまた違って、どちらというと庶民の音楽という捉え方をされている。このメンバーが踊るなら『カルミナ・ブラーナ』なのかもしれない。いずれにせよどんな音楽も僕にとっては厄介で、音楽というのはやっぱり僕には偉大すぎる。
今回初めて『カルミナ・ブラーナ』を全編通して聴きましたが、全体像を掴むまでかなり苦労を強いられました。どこか断片的に聴こえてきて、この曲とこの曲は近いけど、この曲はどこから出てきたんだろうと思ったり……。笠井さんには一応構成表をもらったけれど、この楽曲の作られた理由というのを改めて探ってみるつもりです。
――大植さん自身振付家として活躍されています。創作の過程で笠井さんに意見やアイデアを伝えることもあるのでしょうか。
僕はあまり受け身にはならないですね。僕自身が振付をするときもそうだけど、一人の頭で考えるより、他の人間の意見もあった方がいいと思うから。笠井さんはかなり自由にさせてくれていると思います。『櫻の樹の下には ー笠井叡を踊るー』のときはアドリブもかなり加えていました。例えば踊っている人を手を叩いてあおるシーンもそう。あのときは自分の中で正しいと思ってしたことだけど、今振り返るとちょっとやり過ぎちゃったかな、という反省もあります(笑)。
振付の最中も、意見が違うときは“僕はこう思います”とストレートに伝えます。もちろんそこはリスペクトありきで、健康的な関係性だと思う。僕がいろいろ伝えたことに対して、笠井さんも“消化したい”と言ってくれています。最終的に笠井さんが決めることではあるけれど、この次また帰国したときみんなのパートも含めてどうなっているか、そこは楽しみでもあって。今回の滞在で全体の構成は見えてきたし、今この時間の中でできることはやり切ったという気持ちでいます。
――前作から2年近くが経ち、またこの5人で踊ります。本作に期待されること、意気込みをお聞かせ下さい。
辻本君と柳本君は『忘れろ/ボレロ』という作品を一緒に作ったり、森山君も別のユニットで踊っていたりと、みんなもともとよく知る仲ではありました。ただこのメンバーで集まるということもそうだけど、やっぱり笠井さんがいるというのが良くも悪くも一番大きな部分だと思います。笠井さんはまず本番でどうくるかわからない。その怖さがあり、楽しみなところでもあり、そして笠井さんがいないと成立しないだろうなとも感じています。
良いものにしたいとは思うし、何かしらのものが舞台にあらわれるはずだと思うけど、その何かがまだわからずやってる感じ。でもそれは僕がわかってないだけで、笠井さんにはきっと見えているんだと思う。今の僕にとってはこの5人と笠井さんが舞台に立つということ、それがこの作品そのものであり、この関係性を楽しみにしています。
取材・文/小野寺悦子